潮騒
当時この街には、エンペラーというチームがあった。


けれど実質的には若者による犯罪集団と化していて、それをまとめていたのがタカという男。


堀内組との繋がりも持っていたらしい。



「俺もマサキも、昔タカさんに拾われたから、恩人ってやつかな。」


けれど5年前に起きた、トカレフの密輸事件。


それに関わってしまったタカという男は、証拠を握ったある少年を守り、最終的に組から命を狙われた。



「まぁ、要はタカさんがこの街から逃げる手助けしてやった代わりに、堀内組から奪ったこのトカレフをくれた、って感じかな。」


「………」


「俺らの仲間は死んじゃったし、あれからめちゃくちゃだったけど。」


皮肉そうに、チェンさんは笑う。



「タカさん、今もどこかで生きててくれれば良いんだけど。」


宙に向かって煙を吐いた彼は、再び紙袋を後ろのシートへと放り投げた。


アンタこそ無造作に扱うなよ、と言いたくなるけれど。


チェンさんは物憂げな顔をして、



「タカさん、最愛の女を残してひとりで逃げるのって、どんな気持ちだったんだろう。」


人の一生にはドラマがある、なんて言うと、ひどく美談のように聞こえるけれど。


でもこの街で生きるということは、平穏さからかけ離れているような気がしてならない。


まともな人間ってのがどんなのかはわからないけれど、でもまともな生き方をしてるヤツなんていないのではないと、あたしは思うから。



「選んだことが正しかったって胸を張れる人間は、どれくらいいるんだろうね。」


チェンさんの呟きが虚しく消えた。


ネオンの輝きとは正反対に、それは寂しささえ残すようなものだった。

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