潮騒
「ねぇ、悪いんだけど今はひとりで考えさせてほしいの。」


「けど、大丈夫じゃねぇだろ?」


「心配しすぎだよ、もう子供じゃないんだからね。
それに今更また手首でも切ると思う?」


まるで笑い話のように言ってやると、



「そっか、わかったよ。」


レンは渋々頷き、煙草を消した。



「じゃあ俺は帰るけど、くれぐれも戸締りだけはちゃんとしろよ?」


「うん。」


「それと、何かあったらいつでも電話してこい。」


「ありがと。」


見送る彼の背中。


パタンとドアが閉まると、あたしはその場で頭を抱えた。


レンに言われるまでもなく、もうマサキに連絡出来ないことくらいはわかってる。


けど、でも、引き出しからお守りを取り出すと、やっぱりどうしようもない気持ちばかりが溢れてくる。


初詣のあの日、マサキと揃いで買ったものだ。


あたし達は、出会ったことすら間違いだったのだろうか。


抱いた気持ちも、共有した時間も、すべては罪になるのだろうか。


氷室正輝――お兄ちゃんを殺した犯人の息子。


その事実だけがぽつんと宙に浮いたように、あたしの頭の中に残る。


震える手でお守りを握り締めてみても、結局、それをゴミ箱に投げ捨てることは出来なかった。


ごめんね、レン。

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