潮騒
「あぁ、起きたのか。」


軋んだ体を起してみれば、あたしはどうやらソファーに寝転がっていたようだ。


レンは横で煙草を咥え、昔の写真を眺めていた。



「ごめん、眠るつもりはなかったんだけど。」


「良いよ、別に。
それに人間、脳みその許容量を超えると勝手にシャットダウンされるっていうし、お前の場合は泣き疲れたのもあるんだろうから。」


けれど目覚めてみても、何ひとつ夢の中での出来事だったとは思い難い。


レンには悪いけれど、あたしはやっぱりマサキのことを想ってしまう。


それでも、先ほどよりはずっと落ち着いたのかもしれないけれど。



「さっきコンビニで適当なもん買ってきといたから、腹減ったらそれ食えよ。」


「…うん。」


「あと、どうしてもって時は美雪に連絡すれば、話は通してあるからすぐ来てくれるだろうしさ。」


きっとお兄ちゃんが生きてたらこんな感じだったのかな、というようなレンの優しさが痛い。


雨は今もやむことはなく降り続いていた。


携帯には、誰からの連絡もない。



「なぁ、一応言っとくけどさ。」


そう言ったレンの手に握られているのは、お兄ちゃんが映る写真。



「間違ってもあの男と連絡なんか取るんじゃねぇぞ?」


「………」


「あと、もしもアイツがまた現れたら、俺が警察に相談してやるから、心配すんな。」


彼は強い口調で言いながら、あたしにブランケットを掛けてくれた。


手首の古傷だけが痛む。

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