潮騒
「んだよ、どんくせぇだけか。」


心配して損をしたというような顔で彼は、肩をすくめる。


あたしは未だ小刻みに震える左手を後ろに隠した。



「ごめん、ごめん。
それよりやっぱり今日は、外で食べようよ。」


「はぁ?」


「良いじゃん、たまには!」


手に力が入らないことを、とにかく誤魔化したかったから。



「あたし、良いお店知ってるからさ!」


そう言うと、マサキは渋々納得してくれたようで、はいはい、と口を尖らせる。


今にして思えば、それは警鐘だったのかもしれないけれど。


軽く準備をして家を出ようとした矢先、鳴り響いたのはあたしの携帯の着信音だった。


確認したディスプレイには、“美雪”という文字が表示されている。



「ほいほーい、何?」


バッグに入れた鍵を探すため、軽く通話ボタンを押したのに、



『…ルカ、さん…』


電話口の向こうから聞こえてきた声は、今にも途切れてしまいそうなものだった。


美雪は浅く呼吸を繰り返しながらも、すすり泣いているみたい。



「ちょっと、一体どうしたの?」


『……レン、が…』


「レンが、何?」


『…レンが手首を切ってっ…』

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