潮騒
久しぶりに出勤した。


けれどやっぱりそれは苦痛だった。


仕事に来られなくなった要因はいくつかあるけれど、でも一番大きかったのは、北浜社長が亡くなったというニュースを聞いたから。


会社が倒産し、借金を抱えた末に立ち行かなくなり、最期は自殺だったらしい。


怖かった。


周りの笑い声さえも、あたしを非難する言葉に聞こえて――。



「ルカさん、ちょっと良い?」


担当の黒服によって呼び止められた。


連れられた場所には、店長と、そしてオーナーの姿までも。


到底良い話だとは思えない。



「久しぶりに会ったね。」


オーナーの言葉には嫌味すらも混じるが、それも当然のことだろう。



「キミのお母さんがお亡くなりになったことは知ってるけど、でも仕事とプライベートは別だってわかるでしょ?」


「………」


「そういう状態なら、いっそのこと当分休みを取るべきじゃない?」


それは、クビを宣告されたに等しい。


このファンタジーで落ちこぼれ、ましてやもう稼げもしない人間など、ひどく簡単に切り捨てられる。


わかっていてもショックを受けてしまったあたしは、やはりこの場所にまだ固執しているということだろう。


大嫌いだとすら思っていた、この場所に。

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