潮騒
いつも通りに仕事を終えて、今日は珍しくアフターを断ってあたしが向かうのは、クール・ジョーカーというホストクラブ。


最近ではこの街で一番流行っていると噂の店だ。



「ルカが来るなんて、珍しいな。」


相変わらずひどい言い草の、あたしの指名ホスト。



「そんなに俺に会いたかったか?」


「馬鹿言わないでよ、レン。」


レン――廉人は同い年で、あたしのいとこ。


と、いっても、今は連絡さえ取っていない父方の親戚なので、戸籍上どうなのかはよく知らないが。


でも、彼は唯一あたしが心許す人間であり、この街で共に生きる同志。


同じく18で夜の世界に入り、レンも今やクール・ジョーカーの不動のナンバーワン。


有名な色マクラのホストくんだ。


あたしもレンも、それぞれに金を稼がなければならない理由があるから。



「アンタがしつこく連絡してくるから、わざわざ来てやったんでしょ。」


「だってお前、そういうなら電話無視すんなっつの。」


レンはいたずらにあたしの肩を抱いた。


当然だけど互いに恋愛感情なんてなく、だからこういうお遊びは勘弁してもらいたい。


コイツと一緒にいると、また変な噂を流されるじゃないか。



「ちょっと、レンの所為であたし、掲示板サイトですんごい叩かれてるんですけど。」


「俺もそれ見たけど、傑作だと思って笑いまくったよー!」


知ってるなら、面白がらないでほしい。


あたしは肩をすくめてため息を混じらせ、出された酒を流し込んだ。

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