潮騒

慟哭の涙空

とてもじゃないけど三坂さんに連絡しようなどとは思わなかったし、ましてや誰に相談出来るような話でもない。


レンの両親は離婚調停に向けて動いていると聞いた。


きっともうずっと前から、何かが壊れてしまっていたのかもしれないけれど。


マサキの瞳はいつの間にか、唐獅子のそれに似てしまっていた。



「ほら、そんなとこで寝てちゃ風邪引くよ。」


ソファーでうな垂れるその体を揺する。


テーブルの上には飲み散らかしたらしいビールの缶が、数本転がっていた。



「ねぇ、マサキ！」


再び呼び掛けると、彼はくぐもった声を上げ、まぶたを開ける。


本当に、起こすのが可哀想になってくるけれど。



「あぁ、俺寝てたのか。」


「良いから、ベッド行きなよね。」


けれどマサキは体を起こし、煙草を咥えた。


変なクスリに依存するよりはマシだけど、でも、こんなに酒ばかり飲んでいては、そのうち病気にでもなってしまいそう。



「つーか、頭痛ぇし。」


「そりゃあ、これだけ飲めばね。」


と、嫌味混じりに言ってやると、彼が少し不機嫌そうな顔をしたので、



「しょうがないし、そこのコンビニで何か買ってきてあげるから。」


生憎、冷蔵庫には酔い覚ましになりそうなものはない。


あたしはバッグから財布だけを手にした。

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