潮騒
「ねぇ、もうこの世に存在していない人について、これ以上議論する意味はあるのかしら。」


先ほど一瞬見せた瞳が嘘であるかのように、彼女は再び口角を持ち上げる。



「だって死ぬことしか選べなかったあの子は、弱かっただけでしょ。」


「そういう言い方って…」


「チェンはね、所詮は負け犬だっただけよ。」


怒りよりもずっと、悲しみが増した。


この街では、人の生死さえも重要なんかじゃないんだ、と。



「あなたみたいな人間、いつかは罰が下りますよ。」


「あら、上等じゃない。
まぁ、そんなもので苦しむほど、あたしはヤワじゃないけどね。」


と、彼女が吐き捨てた瞬間だった。


バチバチッ、と音がしたと同時に、あたしの体を電流が駆け巡る。


倒れざまに振り返ると、スタンガンを持った男――先ほどアーケード街で見かけた石橋組の人間だった。



「背後は常に気を張らなきゃ。」


地面に手をつき、何とか四つん這いのような状態で、意識は辛うじて保たれた。


が、痛みと衝撃で、喋ることすらままならない。


真上から見下ろすように腕を組んだスミレさんは、



「マサキとかいう男にも言っときなさい。」


口紅と同じ、真っ赤なヒール。



「石橋を狙ったところで逆に犬死するだけなんだから、今のうちに尻尾を巻いて逃げなさい、ってね。」

< 334 / 409 >

この作品をシェア

pagetop