潮騒
体は完全に熱を失っていたのに、触れ合う場所だけがあたたかかった。


あたしは首を横に振りながら、嫌だ、嫌だ、と繰り返す。


けれどそれはまるでただの駄々っ子のようで、何の意味もなさないものだ。



「聞けよ、ルカ。」


マサキはあたしを落ち着かせるような声で、



「俺といたらお前まで何があるかわかんねぇし、俺は俺の人生に決着をつけなきゃならねぇんだ。」


「………」


「お前はさ、自分だけの未来を大事にすべきなんだよ。」


共に背負う覚悟。


けれど、ふと脳裏をよぎったレンやカオルちゃんの顔が、決断を踏み留まらせる。


すべてを捨てても良いと思えるほどの勇気がなかった。


それは答えだっただったのかもしれない。



「ルカはもう、俺といるべきじゃねぇって、ちゃんとわかってるよな?」


あたしの体を包んでいた腕がほどかれた。


唐獅子は、いつまでも牡丹の花の下では休めない。



「約束、守れなくて悪かったよ。」


「………」


「こんな最後でごめんな。」


絡まっていた指先さえもほどかれて、マサキの足音が遠ざかっていく。


パタリと扉が閉まり、それはあたし達の終わりを物語っていた。


さよならとは、言ってはくれなかったね。

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