潮騒
こんなにも簡単に終わってしまったことが悔しくて、悲しくて、なのに涙は流れない。


やはり最初からあたし達は、別々の道に進む運命だったのだろうか。


不思議とそう思えてくる。


部屋のそこかしこに残る、マサキの香り。


あたしは体を倒し、フローリングの冷たさを身に宿した。



「…マサ、キ…」


真っ白い天井に、その呟きが吸い込まれる。


あたしを巻き込まないように、迷惑を掛けように、という優しさは知っている。


けれど、それでも一緒に居続けることを望めなかった。


だらんと伸ばした腕が重い。


そこに五線譜のように今も刻まれたままになっている、リストカットの痕。


少し考えを巡らせた後で、乾いた笑いが口から洩れた。


今更、薄っぺらい決意で死ねるはずがないのだから。


チェンさんは今、ゆず兄と同じ場所で、何を想っているだろう。


髪の毛から滴る水滴がフローリングに溜まり、まるで涙を流したかのようだ。


あたしは息を吐き、再び体を起こした。


頭の中は今もぐちゃぐちゃなまま、現実だけが、時を止めずに進み続けている。


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