潮騒
街から海まで行くには、かなりの距離を要する。


だからいくら夜だから道が空いているとはいえ、まだまだ時間が掛かりそうだ。


街外れに差し掛かりながら走る車内、美雪はふと、道端の標識を指差して、



「ここ、あたしの地元なんです。」


振り向いた彼女はそう言った。


運転席にいるレンは、少し複雑そうな顔をする。


この街の一番大きな病院に宮城くんが入院していることは、あたしも聞いて知っているけれど。



「少し北部の方に行くと、この時期はホタルなんかもいたりして、すごく綺麗なんですよ。」


「………」


「なのに、ホタルって2週間しか生きられないんですよね。」


悲しいでしょ、と呟く彼女。


どう返せば良かったのだろう。


ただ、この空気に似つかわしくないパンクの音が、嫌に耳障りでしかない。


レンが、吸っていた煙草を灰皿になじると、ジュッ、という音がする。


宮城くんの顔が脳裏をよぎった、その瞬間、



「あ、携帯が鳴ってるー。」


美雪のそれは、まるでホタルのような光を点滅させながら、マナー音を震わせていた。


そして彼女はディスプレイを確認し、首をかしげながらも、



「はい、はい、……え?」


急に固くなった声色に、何事なのかと思ってしまう。


彼女は戸惑うような顔をして、



「…お兄ちゃん、が?」


< 348 / 409 >

この作品をシェア

pagetop