潮騒
美雪は体を震わせながら、持っていた携帯さえも落とす。


そして瞳に大粒の涙を溜めて、



「レン、今すぐお兄ちゃんの病院に向かって!」


「…え?」


「良いから早く!」


宮城くんの身に、何があったというのだろう。


今まで意識を取り戻すことすらなく、植物状態だった彼。



「宮城がどうしたんだ?!」


レンは取り乱したように、声を張り上げる。


けれど美雪は、お兄ちゃんが、お兄ちゃんが、と繰り返すばかりで、状況すらも掴めない。


その様子に、彼は一瞬迷うような顔をしたが、でもすぐにハンドルを切った。



「レン!」


あたしの呼び掛けさえも遮った彼は、



「とにかく今は、行かなきゃわかんねぇだろ!」


でも、レンはどうするの?


なんてことは言えなくて、ただ、助手席で涙を流して体を震わせたままの美雪は、祈るように両手を握った。


その顔なんて見られなかった。


高い建物の少ないこの場所からでも見える、宮城くんが眠る病院。


車は真っ直ぐそこに向かう。



「…お兄ちゃんの脳波が乱れたって、看護師さんがっ…」


それが唯一聞き取れた、美雪の震える声だった。

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