潮騒
屈託のない、まだあどけなさの残るその笑顔は、だけどどこか誇らしげだった。


サングラス越しに、あたしは彼女から目を背けてしまう。


格好良い、羨ましいね、とレンは、女の子達から口々に浴びせられる言葉にまた、困ったような顔をした。



「廉人くん、たまにはカオルとも遊んでよー。」


「あぁ、また今度ね。」


「もう、そればっかりなんだからぁ!」


「ごめんね、忙しくてさ。」


当たり障りのないことばかり言いながらも、レンは助手席で煙草の煙をくゆらせたまま無言を貫くあたしを気にしていた。



「じゃあ俺ら、もうそろそろ行かなきゃだから。」


「えー、つまんない!」


「はいはい。
良いから寄り道せずに気をつけて帰れよ。」


レンは頬を膨らませるカオルちゃんを笑いながら追い払い、車を走らせ一息ついた。


そしてうかがうようにこちらを一瞥する。



「この道はやめとくべきだったな。」


「けど、会っちゃったもんはしょうがないでしょ。」


何でもないことのように言ったつもりだったのに、どこか腹立たしさが治まらない。



「それよりレン、随分とカオルちゃんに好かれてるじゃない。」


「別にそういうのじゃなくて、あの年頃の子は大体みんな、年上の異性に憧れるってだけだろ。」


「中学生の女の子にまで人気だなんて、羨ましい話だこと。」


あたしの言葉に、彼は言い返すことなくため息を吐いた。


レンに八つ当たりをしたって意味はないとわかっていても、口調は刺々しくなるばかりで、そんな自分が嫌になる。

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