それでも、まだ。
『ジ、ジルさん、すいません、すぐに泣き止み…』
神田の言葉はそれ以上続かなかった。
神田は、ジルの腕の中に引き寄せられていた。
『あ、あの…!』
神田は目を見開き、慌てて離れようとしたが、逆にますます強く抱きしめられた。
『…迷惑なんて、思っていない。』
『…!』
神田はピタリと抵抗を止めた。
『邪魔だとも思っていない。止めなかったんじゃない。止めることが出来なかった。本当は引き留めたかった。』
『………っ……』
また神田は涙が溢れ出した。今度は冷たい涙ではなく、温かい涙が。
ジルの言葉のひとつひとつに、胸のつっかえが取れ、何か温かいものでみるみる内に満たされていく。
『でも神田のことを考えたら、…神田の未来を考えたら、やっぱり帰すしかないと思った。…皆、神田を危険な目に遭わせたくないんだ…。』
ジルの表情は抱きしめられていたので見えなかったが、声はとても悲痛なものに聞こえた。
『皆、…勿論セシアも、神田が大事なんだ。』
『……!』
自分は、何を勘違いしていたのだろうか。
この人達が、自分のことを最優先に考えてくれていたことは分かっていたはずなのに…。
こんなにも優しい人達なのに。
神田はジルの服をぎゅっと握り締め、顔を埋めた。
『ありがとう、ございます…っ』
それが泣きじゃくった神田に言える精一杯の言葉だった。
だがジルに神田の感情の変化を伝えるのには十分だった。
ジルは神田が泣き止むまで、ずっと背中を優しく撫で続けていた。
―――――
落ち着いた神田はジルから少し離れて顔を上げた。
と言っても、未だにジルの腕の中にいるのだが。
すると、思いの他近かったジルの顔が神田を優しく見つめていて、神田は急に恥ずかしさを感じた。
『…神田?』
ジルは不思議そうに優しく神田の頬を撫でた。
『………っ』
神田は慌てて下に視線を逸らした。
じわじわと顔に血が集中するのが自分で分かった。
…あれ?なんでこんな状況になったんだっけ?というか、今、なんかジルさんの腕の中にいて顔上げたらすごく近くて……
…えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?
神田の顔はボンッという効果音が似合うくらい一気に真っ赤になった。
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