それでも、まだ。
『……神田?』
ジルはまた不思議そうに神田に話しかけた。…相変わらず手は神田の頭や頬を優しく撫で続けている。
先程からの自分にしてくれるこの優しさは無意識だろうか。…そうだとしたら質が悪い。ずっと心臓がドキドキして大変である。
…あれ?もしかしてジルさんってタラシ?…いやいやいや。
『……え…っと…』
神田は自分に落ち着けと言い聞かせつつ上目がちにジルを見上げた。
『…っ!』
すると同時にジルはビクっと体を固まらせ、急に横を向いて神田を撫でていた手で口元を押さえた。
手で表情は見えないが、心なしか耳が赤くなっている。
急にどうしたのだろうか。
『ジルさん?』
多少余裕が出てきた神田がジルの表情を窺うが、ジルは頑なに表情を見せようとはしなかった。
『ど、どうしたんですか?』
『あー…いや…。』
ジルは未だに手で顔を隠しながら歯切れの悪い返事をしている。
『その…神田…』
『え?』
神田がきょとんとして聞き返すと、ジルは慌てたように神田の方に顔を向けた。
『い、いや…!か、神田が帰る前までに、料理が上手くならないとな…!』
『ジルさん……。』
神田はふわりと笑った。
『それは無理じゃないですか?』
『……そこはせめて応援してくれないか。』
そう言い合って2人で少し笑った。
そしてジルの手がまた神田の頬に触れた。
そのやはり優しい手つきに、神田は心地好くなって、目を細めた。
『…神田……。』
ジルの顔がだんだんと近づいて来て、神田はぎゅっとジルの服を握り締め、無意識にゆっくりと目を閉じた。
そして――…
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