それでも、まだ。



『大丈夫か、真理。』


『は、はいっ。』



神田に背中を向けたまま言うアヴィルに応えると、アヴィルは抜いていた刀をシーホークに向けた。



『…何しに来やがった。』



アヴィルが唸るような低い声で言うと、シーホークはクスクスと笑った。


『…別に貴方たちに用があった訳じゃないですよ。後ろにいるお嬢さんと話したかっただけです。』


シーホークの言葉にビクリとした神田であったが、アヴィルは微動さえせずにフンと鼻で笑った。



『…だからわざわざそんなに洒落込んでんのか?必死だな。』



『まぁ、第一印象が大事ですからね。』


シーホークも笑ったまま応えると、タキシードの上から黒いマントを被った。


…そのとき神田が、第一印象は良くないものだったと内心毒づいていたことは心に秘めておく。




『今日は帰ってあげましょう。…またすぐに会う機会があると思いますしね。』



そう言うや否や、シーホークの周りを黒い渦が巻きはじめた。




『…まずいな。』


アヴィルはチッと舌打ちをすると、神田の腕を引っ張って素早く倉庫の外へ飛び出した。



『え?…きゃっ!』


状況についていけず、足が縺れてこけてしまった神田だが、通路から振り返って倉庫を見た途端、目を見開いた。



『う、渦が部屋全体に…?』



倉庫内は黒い渦が荒々しく立ち込めており、そこから生じる強い風が、神田の髪を揺らした。



『…あいつは闇の能力者だ。マダムとは少し違うがな。あれに飲み込まれると、二度と帰って来れねぇぞ。』



アヴィルの説明にゾッと背筋を凍らせずっと渦を見つめていた神田とアヴィルだったが、やがて渦は倉庫内すべてのものと共に消えた。



『…………。』



閑散としてしまった倉庫に神田が何も言えずにいると、後ろからまた聞き慣れた声が聞こえた。



『アヴィルさん!神田!』



2人が振り返ると焦った表情で走ってくるジルとレンが見えた。



『ジルさん!レンさんも…!』



神田は安堵の声を漏らした。



2人は神田とアヴィルの前で止まると、息を整えながら辺りをキョロキョロと見渡した。



髪や任務服からはポタポタと水滴が垂れている。




『はぁ…はぁ…無事だったか…。』


『はは…はぁ…リーヤにペトラルカ…、そして今度は主が現れたんですか?』



いきなり聞こえてきた知らない人名に、神田は首を傾げると、隣に居たアヴィルは懐から煙草を取り出し、口にくわえ火を点けた。



『…まずはこの場を収集してからだ。それに状況も整理してぇ。』


そしてアヴィルはレンとジルの横を通り抜けると、そのままスタスタと地上に向かって歩きだした。



『…話はそれからだ。あと神田、お前もそのとき加われ。』



『…え?いいんですか?』



神田は思いがけないことに間の抜けた声を上げたが、アヴィルは気にすることなく続けた。



『…さっきのことも聞きてぇしな。さっさと行くぞ。』



そして4人はその場を後にした。




――そのときレンとジルの表情が僅かに固くなっていたことは、神田は気づきもしなかった。



< 132 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop