それでも、まだ。

『結菜はここにずーっといるのにね。』


一通り掃除をして、花を買ってきたものに換えた神田は、結菜のお墓の前でしゃがみ込んで一人で手をあわせた。



結菜はもともと両親がおらず、知り合いも少なかった。

結菜も結菜で人が近づけないようなオーラを持っており、物静かな子だったため、友達も少なかった。結菜が他の人といるのを、見たことがなかったくらいだ。


だから事件から3ヶ月となるとお墓に来る人もほとんどいない。



『本当はとっても優しい人だったのに…。』



風が墓の間を吹き通り、先程移し替えた花がゆらゆら揺れている。


神田はギュッと眼をつむった。


確かに、神田自身結菜と友達になるのは難しかった。


全然神田と話そうとせず、なんというか、警戒されていた。


しかし神田もしつこかった。

結菜にどんなに素っ気なくされても、神田はあきらめなかった。


ついに結菜が折れて、


『……物好きだな。』


って少し笑ってくれたときは感動して神田は涙を溢れさせた。



――とても綺麗な笑顔だった。



『な、なんで泣くんだ!?』


『え、い、いやつい…。』


『やっぱり私と友達になるのはいやなのか……?』



『…え、そんな訳ないじゃん!』


しゅんとした結菜を見て神田が慌てて首を横に振ると、結菜は首を傾げた。


『え…。じゃあ花粉症か?』


『違ぁぁぁぁう!!!!』



…この人はきっと天然だ。…今の流れで普通そう思うだろうか。いや、絶対に取らない。



『…フフッ。泣いたり怒ったり、忙しいやつだな。』



…神田の涙の理由が自分のせいだと気づいてるだろうか。

しかし笑っている結菜を見た神田は、何も言えなかった。



『……私と友達になっても、面白くないぞ。』



結菜は寂しそうに俯くのを見て、神田は胸が締め付けられた。



『…関係ないよ。私が仲良くなりたいの。私が結菜とたくさん話したいの。』


神田は真っ直ぐに結菜を見つめてはっきりと言った。


結菜は一瞬驚いたような顔をしたが、そのまま神田をじっと見つめ返した。


まるで神田の真意を確かめているかのように。


暫く沈黙が続いたが、ようやく結菜は口を開き、


『…そうか。ならこれからよろしくな、真理。』


と言った。
…とても柔らかな表情で。


『え、今、私の名前……。』


『ん?違ったか?神田真理。』



また結菜が笑った。

――嬉しい。今まで名前なんて呼んでくれなかったのに。…認めてくれたんだ。


…あ、やばい、また涙が。



『おい、どうした?ってまた泣いて…』
『ゆぅぅぅなぁぁ!!』
『ちょ、抱き着くな!そしてなんで泣くんだ!?』



また分かってない。

…まぁ、今はいっか。

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