それでも、まだ。
『…どうしてだい?』
マダムは一瞬唖然としたが、またゆっくりと聞き返した。
…理由くらいは聞いてもらえそうだ。
でも、なんと言ったらいいのだろうか。
この組織に、親友に似た人がいるから、それだけの理由で話してもらえるだろうか?
私は俯いた。
『…真理は、セシアのことが気にかかるのかい?』
『―!』
思っていたことを見透かされたようで驚いてパッと顔を上げると、マダムはフッと笑った。
『分かりやすいねぇ。』
『な、何か知っているんですか!?』
マダムに詰め寄った。
『そりゃあ知ってるもなにも、あの子は同じ幹部だからねぇ。…ただし、条件があるよ。』
マダムはニヤリと笑った。
…さっきと同じ雰囲気だ。
神田は思わず後ずさった。
『なぁに、怖がることはないよ。選ぶだけ。』
マダムは真理の亜麻色の髪に腕を伸ばした。
『選ぶ……?』
神田はマダムを見上げた。
『そう。…もし、これから先の話を聞きたいなら、真理は一生元の居場所には戻れなくなる。それが嫌なら、聞かない。それなら、すぐに元の居場所に戻してあげる。』
マダムは手に髪を絡ませながら、神田の反応を見るようにゆっくり話した。
…元の居場所とは、あの墓場のことだろうか。
つまりセシアのことを知って自分が一生ここで暮らすか、セシアのことを見捨てて助かるか、ということか…?
――(すまない、忘れてくれ。)
あの悲しそうな笑顔が頭に浮かび上がった。
『…教えてください。』
迷いはなかった。
親友が殺し屋になっているのに、つらい思いをしているかもしれないのに、見捨てるなんて、出来ない。
忘れられないよ、結菜…。
真っ直ぐマダムを見つめて、はっきりとそう答えた。
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