それでも、まだ。
『いいのかい?知ってしまったら、下手すれば殺されてしまうかもしれないよ?それに、セシアと真理が思っている子は別人かもしれないしねぇ。』
マダムは表情を変えずに聞き返した。
『…それでも、私は知りたいです。確かに、別人かもしれません。…でも、』
私は大きく息を吸った。
『私はセシアさんのことが、セシアさんの悲しくて冷たい目が、忘れられない!知らなかったら、私はきっと後悔します。だから、教えてください!』
声が震えている感じがしたが、必死に自分の思いを伝えた。
マダムは目を見開いていていて、驚いたような顔をしばらくしていたが、急にフッと笑った。
『フフっ、本気みたいだね。…どうだい?おふたりさん。少しは話してあげたらどうだい?』
『え?マダム、誰に言って…?』
神田がキョトンとしていると、マダムの背後にあったドアからレンとジルが入ってきた。
『えっ、レンさんとジルさん!?』
思わず声をあげると、2人は罰が悪そうな顔をした。
『ハハ、酷いなぁマダム。ばらしちゃうなんて。』
『真理のことは聞いていたさ。でもどこまで知っているかなんて聞かなかったからねぇ。』
マダムはちらりとジルを見た。
『…それは今日話す予定だった。まさか、こんなに早く帰ってくるとは思いまい。』
『それもそうかねぇ。昨日は雨が酷かったからねぇ。さっさと帰ってきたのさ。』
濡れるのは嫌いだから、と言いながら、マダムは神田の背後に回り神田を抱き寄せた。
長身のマダムは、小さい神田を簡単に包みこんだ。
『マダム……?』
突然のことに、神田は体を強張らせた。
『大丈夫、何もしないさ。』
マダムは優しい口調で言った。
『…それで?話す気にはなったかい?』
マダムの言葉に、神田もレンとジルの方を見た。
2人はしばらく黙っていたが、ようやく観念したように、
『分かったよ、話すよ。』
とレンが言った。
『ただし、セシアには言わないでね。それが僕たちの条件ね。』
レンは人差し指を口に当てて、ニコッと笑った。
ジルは隣で目を詰むって静かに立っていた。
神田は真剣な表情で、ゆっくりとうなずいたのだった。
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