それでも、まだ。
現実と戸惑い


『マダムが言っていた通り、僕たちは殺し屋をやってるんだよ。』


レンはお茶を飲みながら話し出した。




――あの後、まずは神田が作った朝食をみんなで食べたのだ。


なんだかんだ好評で、神田はこっそり喜んだ。



今はテーブルに神田とマダム、レンとジルでそれぞれ隣になり向かい合うように座っていた。



『…じゃあ、今ごろセシアさんも…?』



神田が小さな声で言うと、レンは目を細めた。



『…うん。でもシキと合流するはずだから一人じゃないし、大丈夫だよ。それに、今回のセシアの仕事は危険なものじゃないしね。』



『そ、そうですか…。』



ホッと胸を撫で下ろすと、マダムは神田の頭にポンッと手を置いた。



『セシアは強いから安心しな。…シキも早く帰ってくるのかい?』


『…シキも仕事が早く終わったそうだ。だからセシアと今日の夕方には帰ってくるはずだ。』



ジルがそういうとマダムは神田から手を離し、考えるような顔になった。



『…話を戻すよ。それで僕たちは殺し屋は殺し屋でも、人間政府秘密直轄組織っていう組織なんだ。』



『人間政府秘密直轄組織…?』


とても長い名前だ。聞いたことがない。



『そ。僕たちは人間政府に雇われた殺し屋なんだ。そのトップに君臨するのがボスであるベルガさんと副ボスであるアヴィルさん。その下に僕たち幹部、その他数100人で構成されてるんだ。』



『そんな大きな組織があったんですね…。…殺し屋って、政府から雇われるものなんですか?』



『普通は違うだろうね。』


『それならどうして…?』



レンはそこまで言うと、急に顔を歪めた。


一瞬神田は自分がいけない事を言ってしまったかと焦ったが、どうやらそうではないらしい。


やたらあーとかうーとか言いながら難しい顔をしている。



『…俺たちは、この世界の秩序を正しいものにし、人間世界を守るための組織だ。』



代わりにジルが口を開いた。

急に難しい言葉に、神田は頭が混乱した。



『窓の外を見てごらんよ。』



マダムがそんな神田を見て、窓の方を指さし、神田もつられるように窓の方を見た。



『暗い……!?』



いや、暗すぎるのだ。
もう時計は9時を指している。
いくら雨が降っているからといっても、ここまで暗くはないはずだ。



『…分かったかい?この世界は、真理が今まで暮らしてきた世界と違うのさ。』



マダムはキセルを吸いながら飄々と話した。


神田は驚きのあまり、口がきけなかった。



『この世界は…、太陽なんかない夜の世界さ。』


神田は、自分はとんでもない所に来てしまったと肌で感じたのであった。



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