時を止めるキスを
こちらに歩みを進めながらも、鼻を鳴らすような嘲笑をされてグッと言葉に詰まってしまう私はじつに情けない。
「どうなんだ?」
その間にこちらとの距離を数メートルにまで縮めたチーフの眼差しに怯み、射ぬくような視線に思わずゴクンと息を呑む。
いい知れぬ恐怖から逃げようとすればするほど、嬉々として追いつめるその姿は、まさに“ドラゴン”そのものだ。
「それとも、もう綺麗サッパリ清算できたわけ?」
「か、関係ないじゃないですかっ!」
そうだ、この嫌味が服を着ているようなムカツク男は、私にとってただの上司でしかない。恋愛沙汰に深入りする権利など彼にはないというのに、なぜ私は弱気になっていたのか。
たとえ上司でも、してはいけないことがあるのだ。私はこれ以上の詮索は不要と言わんばかりに睨みを利かせ、再びPCに向き直ろうとした。
その刹那、チーフに左手首をグッと力強く掴まれたため、それはあっけなく制されてしまう。
不意の行動に狼狽したのも見透かしていたのか。意地悪く口元を緩ませた彼が、掴んでいた手を解放して今度はそっと上に重ねてきた。
「忘れたって言うなら、コレは不要だろ?」