時を止めるキスを
骨張った指先でなぞるように触れられ、ぞくりとこの身に走る戦慄。呼吸すらまともに出来なくなるなんて、私はどうしたのだろうか。
「ッ、離して下さい!」
ハッと我に返って叫ぶが、どこ吹く風といった様子のチーフ。それどころか、ある一点を集中して撫でているのは確信犯である。
そんな彼の指先が捕らえて放さない物――それは今フラれたばかりの元彼から、付き合いたての頃にペアリングと言って貰った指輪だ。
この怒りに任せて、今すぐごみ箱にでも捨ててしまいたいのも山々ではある。……でも、それが出来ないのは、やっぱりすぐには彼への気持ちを葬れないから。
もう、指輪をはめていたって何の意味もない。そんなのよく分かってる。でも、割り切りさえ未練に握り潰されている心境では、押し寄せる後悔と悲しさに打ちのめされるばかりである。
「ひっ…、も、うは、なしてっ!」
「ヤだね」
「はああ!?」
今さらだけど、私の上司に対する態度はひどいものである。だが、その相手がこの状況で本性を覗かせてくるのだから致し方ないはず。