時を止めるキスを


シンと静まり返る中、近づいてきた整った男の顔と言葉にはもう、とても拒めない環境が出来あがっていた。なんて恐ろしい確信犯なのだろうか。


その刹那、チュと軽く落とされたキスで再び、自らの体温が上昇していくのを感じた。スッと煙草の匂い混じりの唇が離れた時、鼻腔を掠めていく男物の爽やかな香りもまた鼓動をイヤに押し上げる。



「これも何かの縁。何にも気にせず楽しめば?」

「っ、」

口角を引き上げて小さく笑ったのは、紛れもなくただのムカつく嫌味な上司。そう思いたいのに、頭の中でさっきのキスがぐるぐると駆け巡ってばかりいる。


まさに茫然自失な私を置き去りに、さっさと隣のデスクにつきヘルプを始めたチーフを、男として意識してしまっている馬鹿な自分に戸惑うばかりだ。


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