時を止めるキスを


2時間を超える長丁場にもかかわらず、疲れた顔ひとつ見せずに秘書室に現れたチーフの眼光は、まさに衰え知らずといったところか。


「それと議事録も頼む」

「はい、直ちに作成します」


その真っ黒な瞳と目が合うと、呼吸さえ上手く出来なくなってしまう。


無機質なノン・フレームのメガネを掛けた男が潜めさせている、あの欲深さを知ったせいだ。


ごく最近まで恐怖しか感じなかった人が、今では扇情的に映るとはなんて酷なものだろう。


仕事中なのに、視線が重なると苦しくて、この場から逃げたくなる。


すぐには振り切れそうもない想いを溜めても、どうしようもないのに……。


耐えきれずについ目を逸らしてしまったが、彼を呼ぶ声が遠くから聞こえて救われた。


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