時を止めるキスを
今や国民病ともいわれるアレルギー。重篤症状のアナフィラキシー・ショックを起こせばたちまち生命にかかわってくる。
そのためフルーツ・アレルギーの方にとっては、いくらその品が高級であろうがフルーツが混入したものなど言語道断。
ましてそれを知っていながら先方へ渡したとなれば、常務はおろか会社の質まで問われかねない。
あまりに愚かで、初歩的ミスとさえ呼べない行為だった。……秘書として私は、有るまじき失態を犯したのだ。
中堅どころになってきたとか、先輩になったから、と心のどこかで鼻を高くしていたのかもしれない。
「大変申し訳ございません、その」
「言い訳なら不要だ。今後は十分気をつけてくれ」
「はい、大変申し訳ございませんでした……」
そこで視線を落とし、再びPC作業を再開した瀧野チーフに対して再び深く一礼し、黙って踵を返す外ない。
彼の言った、今後というフレーズにはチャンスが残っているのだからありがたい。何をしていたのかと悔いながら、一歩ずつ前に進んでいく。
そんな私がデスクへ戻る途中、居合わせた同僚たちには気の毒そうな視線を向けられる。すみませんの代わりに、小さく頭を垂れると惨めな気分がより募っていた。