Blood Smell
一族
バイトが終わったその足で
河合クンとの待ち合わせ場所へと向かった


静かに胸が脈打つ


公園のすみのベンチ・・・
河合クンはもうそこにいた

私を見つけるといつもと変わらない
笑顔をくれた


チクンと胸に針が刺さる

「ごめん待たせた?」

笑顔を作って河合クンの隣に座った

「いや、夏の夕方の時間帯って好きだから
ちょうど夕涼みになったよ。」

2,3日しか会ってなかったはずなのに
河合クンがこんなにも懐かしく感じる

この前よりも焼けた素肌

私は河合クンから目をそらした

「あ、あのね。
・・・

・・・

この前のことなんだけどー・・・」


「あーそのことなんだけど、今すぐ答えいらないから。
ゆっくり考えてもらってかまわないから・・・。」

頭をかきながら恥ずかしそうに言う河合クンが
切なく見えて・・・

私は真っ直ぐ前を見つめて

「ごめん。」

そう一言・・・・言った

「えー・・・?」

河合クンを直視する事なんてできない私は
きっと卑怯者
寂しさを河合クンで埋めようとしていた私は
きっと最低な女

「私・・・好きな人がいるんだ。」


ヒグラシが
やけに煩く聞こえる


沈黙が迫りくる夜の涼しさに拍車をかける

「・・・そっか。
わかった。」

河合クンはそれだけ言うと自転車で行ってしまった


私はその背中に何度も何度も謝った

若葉をつけた桜の木の陰で何かが動いた
その影は静かに私に近づく

「せんせ・・・ぃ・・・。」

私は先生に抱きついた
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