ただ今、政略結婚中!
『もしもし?』


少し低音の声が聞こえてきた。


「あ、あの」


『あぁ。なにか用か?』


なにか用かって……。


彼の言葉に絶句してしまう。


一度も会わないこの状況に不安じゃないの?


「……一度も会わないまま、神様に誓うんですか?」


『そうだが?』


そうだが?


彼の飄々(ひょうひょう)とした様子に私は苛立った。


「そ、そんなのおかしいと思いませんかっ?」


『では何が望みなんだ?初対面でも結婚式は行われるし、俺たちは夫婦になる』


簡単に結婚が行われるような彼の言葉に腹が立ち、無言で電話を切ろうとした時、部屋のドアが開いた。


ドアの方を向いていた私は、思わず小さな悲鳴を上げた。


彼が携帯電話を耳に当てながら入って来たのだ。


『ほう……きれいに化けたもんだ』


彼の鋭い眼差し、口元は心なしか楽しそうに私を見つめている。








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