きみとぼくの、失われた時間


随分長いこと神社に留まり、有意義に時間を過ごすことができた俺は満足げに二人と別れる。
 
本音を言えば夕暮れまであいつ等と遊びたかった。
でも、さすがにそこまで付き合わせると捜しに来てくれた秋本と遠藤に悪い。

別れの際、俺は二人に仲間に入れてくれた礼を告げた。

学校に通えない俺にとって本当に楽しい時間だったのだから。


「んだよ水くせぇな。またヤろうぜ」

「そうだよ。また遊ぼうね」
   

静寂な神社に舞い上がるような澄んだ声で、俺に「またな」と言ってくれる二人。

意味合いを込めて島津と永戸が手を振ってくれたもんだから、なんだか泣きたくなった。

俺に“また”なんてあるのかな。
2011年を彷徨う俺に“また”なんて、嗚呼でも、折角出逢った2011年の同級生だ。


“また”会いたい。


俺は躊躇しつつ、もう一度手を挙げて「またな」その気持ちと笑みを返した。

また会おうな、俺が消える、もしくは俺が15の俺でなくなる前にもう一度、会おうな。
  
 
「腕磨いとけよ」島津の励まし代わりの悪態に、「うーっせぇ!」そっちも腕磨いとけよ、悪態で返して俺は視線を戻して今度こそ二人と神社を後にする。片手にはコンビニで買ったビニール袋を提げて。
   
  

「良かったな坂本。こっちで友達ができて。まさか、秋本の教え子だなんて思いもしなかったけど」
 

細い歩道を横一列になって歩く俺達は帰路を歩いていた。
 
「まったくよ」なんで私の教え子とのらりくらり遊んでいるの。

お小言を飛ばしてくる秋本の表情が幾分良くなっている。

二日酔い、ちょっとは良くなったのかな?
ごめんごめんと謝罪しつつも、俺はホックホクした気持ちで足を動かしていた。

沢山遊べて凄く満足だ。
欲求不満が解消されたって気分。
 

「あいつ等、いい奴等だな。秋本の教え子すっごく面白い奴等だった」


永戸はともかく、島津はちと小生意気だったけどいい奴だった。最初こそひねくれ少年くんだったのに。
 
ふふっと笑みを漏らす秋本に笑みを返し、学校に通いたくなったなぁっと頭の後ろで腕を組む。


「1996年だったら、お前等とも気兼ねなく遊べるのになぁ。今のお前等、仕事してるもんなぁ?」

「俺もできたら15に戻りたいぜ。なあ、先生」

「ほんとよ。教師なんて身の上、捨ててしまいたいくらい」


こんな会話をしている俺達こそ≪本当の同級生≫なのに、ちょっち溝がある気がした。それはきっと年月という小さくも大きい溝だろう。

15に戻ったら何したい? 15って何があったっけ? と二人で駄弁り始めるもんだから、俺はついていけなくなる。


仕方がなしに歩道と車道の境界線上を歩くことに集中した。
 
足がはみ出さないよう線上を歩き、マンホールをひょいっと飛び越え、直進。思い出話に花を咲かせる二人の後をついて歩く。

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