きみとぼくの、失われた時間


「時間が廻り始めたんだ。俺にはそう、時間がない」

 
ふわっと俺を慰めるに風が頬を撫でてくれる。

微苦笑を零して、俺は紫に染まる2011年の空を仰いだ。
 

俺の中の時間が廻り出した。此処に留まれる時間が廻り出してしまったんだ。


今まではきっと、俺の中で止まっていたに違いない。

だけど、今、俺の中ではっきりと感じる。時間が廻り出したことを。


少しずつ分かる時の流れに俺は微苦笑を漏らす。

なんでそんなことが分かるか、ンなの俺でも説明がつかない。でも廻っていることには違いないんだ。
 

じゃあ廻り出した契機はなんだろう。
 

そんなの俺自身が分かっている。

俺がどうして此処に来たのか、なんで此処にいるのか、此処で呼吸をしているのか、それが今なら分かるように、廻り出したきっかけも分かる。


俺の中で拒絶を始めているんだ、2011年の世界を。


秋本や遠藤、それから島津、永戸が俺に仲良くしてくれている。俺はそれが嬉しい。


だけど、俺自身、じょじょに理解し始めている。


此処は俺のいるべき世界じゃないって。



―…そう、15の俺がいていい世界じゃないんだ、此処は。
 

 
「俺は探さないといけないんだ。残した居場所探しを」
 


永戸には偉そうなことを言ったけど、俺もまた旅人。2011年にやって来た1996年人。


死んでいるのか、生きているのか、それはまだ分からないけど、俺は時間の許す限り、行動を起こさないといけない。


だってもう、俺には時間がないんだから。
 

このままじゃ俺は確実に後悔して消えてしまう。


時がリバウンドしてアラサーになる説はない。本能とご神木が教えてくれるんだ。


嗚呼、俺は数日も経たないうちに2011年から消える。


これだけは確信を持って言えることだ。
  
< 171 / 288 >

この作品をシェア

pagetop