きみとぼくの、失われた時間

<02>うちに帰ろう



「―――…約1ヶ月ぶりの帰宅だよなぁ」
 
  

夜も深まった空の下。
 

俺は築何十年も建っている二階建の一軒家を見つめ、見つめて、静かに息を吐き出している真っ最中だった。

周囲に点々と見える外灯を視界の端で捉えながら、閑寂と佇んでいる我が家に俺は苦笑い。


どうしてだろう、生まれたその時から此処に住んでいた筈なのにちっとも我が家って感じがしない。

15年分、此処で暮らし、生きてきたっていうのに、我が家に帰って来たって実感が一抹も湧かない。


1ヶ月近く秋本の部屋で居候していた日々が充実していたせいか、それとも15年経った我が家の空気の変貌に驚愕していたせいか。


どちらにしろ、「ただいま」という気分にはなれなかった。

どちらかといえば「お邪魔します」と言いたくなるこの心情。


他人の家に見えて仕方がない。


「さあて、どうしようかな。中に入ろうか。だけど、父さん母さんには見えるのかな。俺の姿」

 
どうやら今の俺の姿が見える人物達は、この時代に飛んできた俺と関わった奴等だけみたいだし。

一応血縁という深い繋がりはあるけれど、こっちに来てから一度たりとも両親には会っていない。

会いたい気持ちがなかったわけじゃない。


だけど怖かった。

15年後の両親がどう変わってしまっていたのか、知るのがどうしても怖かった。


変に緊張感を抱いてしまう。どうすることもできず、石造りのブロック塀を力なく見つめる。

あのブロック塀を乗り越えて、よく中庭に侵入していたんだよな。

兄貴とヤンチャして母さんに叱られていたっけ。

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