きみとぼくの、失われた時間


ぐるっと周囲を見渡す。


景色は殆ど変わっていない。

ちょっち近所の家々が改築されたかな? って、思う点はあるけど、目分量では殆ど変化なし。


周囲が暗いから変化に気付けないのかもしれない。
 

俺の背後をバイクが通り過ぎる。

眩い光は瞬く間に風と消えた。

残像が瞼に焼き付く。
チッカチッカとした光が瞼の裏で宙を待っている。
 

はぁっ、鉛のような重々しい二酸化炭素を吐いて一つ深呼吸。

こうしていても時間が経っていくだけだ。

アクションを起こさないとな。


まずは裏に回って中の様子を見てみよう。

カーテンが仕舞っていなければ、窓から居間の様子とかが分かる筈。
 

差し足抜き足忍び足で裏に回った俺は、早速居間の様子を知るために窓をのぞき込む。

幸いな事に窓を覆っていたのはレースカーテンのみ、メインのカーテンは閉められていない。

網戸だけ閉められた窓を恐る恐るのぞき込む。

そこには懐かしい居間の光景。

脚の短い長方形のテーブルや箪笥、それに畳。


俺の知る居間がそこにはどどーんと存在している。


ただテレビだけは新しくなっているようだった。


俺が知るテレビよりも、ずっと大きいし綺麗だ。
 

そういえばニュースで地デジ放送は終了するとか言ってたもんな。

難しいことはわっかんねぇけど、そのせいでテレビを買い換えたり、アダプターってヤツを付けなきゃいけなくなったりしたんだろ?


ブラウン管はもう古いってことだけは俺でも理解できた。


真っ白なレースカーテン越しから居間を観察してみるけど、誰もいないようだ。


気配はなく、テレビの声だけが聞こえてくる。

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