きみとぼくの、失われた時間


「外で遊びたいな。家バッカつまんねぇし…、だけどそれじゃあ秋本に迷惑掛けるし」
 

肩を落としてリビングに戻った俺はカフェオレを飲み干して、それを流し台に置くとテレビの電源を消す。

しっかりと戸締りをした後、着替えて、キャップ帽をかぶった。

べつに遊びに行くわけじゃないぞ。
買出しに行くんだ。そう買出しに。

秋本の頼まれた物を買って、ちょこっと散歩して帰るんだ。

秋本に迷惑は掛けられないしな。


あ、けど…、しまったな。

着る服、全部洗っちまった。
家着で行くわけにもいかねぇしな。

これ、借り物だし。
家事をこなしたせいか、若干汗臭いし。


「秋本の服を勝手に失敬したら怒るだろうし…、しょーがねぇや。制服で行くか」

 
上衣は置いていこう。名札がついてるからな。

ズボンとカッターシャツを身に纏い、俺は彼女が置いて行った五千円札を通学鞄に入れて外に出る。

スペアの鍵を持ってるから、それでしっかり鍵を掛けて…っと。


さあ行こう。
 

エレベータで一階まで下り、マンションを出ると近場のスーパーに向かって歩く。

秋本は何が欲しいって言ってたっけ。

二日酔いの薬と胃薬、味噌に、ティッシュって言ってたような。

バタバタと申し付けてきやがったから覚えてねぇっつーの。


せめてメモ紙に書いていけよなぁ。


ふうっと溜息をついて大通りの歩道を目指す俺は、向かい側の道路で大行進をしている幼稚園児を見つける。

仲良くおててを繋いで、どっかに歩いてるけど、遠足か何かか? 友達と楽しそうに歩いちゃって…、羨ましい限りだ。


俺も本当だったら学校に行ってる筈なんだけどなぁ。

常々学校はだるいって思ってたけど、いざ行けなくなる状況下に追い込まれると恋しいかも。

勉強は苦だったけど、友達と駄弁ったりするのは楽しかったしな。
喧嘩したり、失恋したり、色々ヤなこともあったけど…、意外と俺は学校が好きだったようだ。とても恋しい。

今の俺は学校どころか、近所さえもほっつき回れないしな。
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