記憶の桜 -栄枯幻世-
「奴はただの商人じゃねぇ。長州の間者だ」
長州の間者――?
「だからって、商人を拷問にかけるなんて――」
「商人だから何だ?」
土方さんは苛立ち気に私に詰め寄って来た。
私は後退った。
「商人だろうが、間者は間者だ」
背中が柱に当たり、これ以上下がれない。
彼は私の顔の横に両手はついた。
「でも…」
私は土方さんが心配だった。
そんな事をしたら、優しい彼がいなくなってしまう気がしたから――。