KK

┣言葉

「あれ、浩二?なに書いてるのさ?」

ふと、教室に残る背中に目が留まった。

浩二はバツ悪そうな顔で振り返って、はにかんだ笑顔を見せる。

「日記・・・かいてたんだ」

「お前が、日記?そんなのつけてたんだ」

うん、と言ってまた日記にペンを走らせた。

「わざわざ学校で日記書かなくてもいんじゃねーの?」

「家に帰っちゃうとさ、書くの忘れちゃうんだ」

案外抜けているところもあるらしい。

短い沈黙。

ペンがノート越しに机を叩く音と、外の部活動の声だけが聞こえる。

「なぁ、なんでわざわざ日記なんて付けてんだ?別に写真でいいだろ?」

淀みなく鳴り続けていたペンの音が止まる。

話を繋げるために言った一言だったが、浩二にとっては大切な話だったらしく

体ごとこちらに向けてきた。

「写真じゃダメなんだよ。例えばそのとき、どれくらい嬉しかったとか

 悲しかったとか。文字じゃないと伝わらない気持ちってあるから――」

さっきとは違う種類の沈黙。

気まずくなって頭の裏を掻く自分。

言ってみてから気恥ずかしくなっている浩二。

悪くはない気もする。

「じゃぁさ、お前一番の思い出ってなに?」

天井を見上げながら、聞こえなければそれでいいと感じで言う。

だが、耳ざとい浩二はしっかりと聞き取り、日記のページをめくる。

「これ、かな?」

だが声が指す物は、日記の文字ではなく、一枚の写真だった。

「去年の夏祭りのやつじゃんか」

「うん、この後から日記付け出したから、これには文字がないんだ」

その写真には、浩二と自分が笑いながら写っていた。

「和義といった夏祭りが、今のところ僕一番の思い出かな」

初めのとも、その前のとも違う類の沈黙。


時計が長針が、小さく音を鳴らして揺れた。



「浩二、父さんは嬉しいぞ!!」

「わ、やめてよ和義!?男に抱きつかれても、嬉しくないんだから!!」



気がつけば、外の音は聞こえなくなっていた。

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