透明水彩
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…――眠れ、ない。
今日の出来事が、あの光景が頭から離れなくて。
目を閉じる度沸き上がる恐怖と不安に、押し潰されそうになる。
あたしを庇って、倒れた莱。
彼の血が伝った頬の感触は、きっと忘れられない。
あの数分前までは、笑っていたのに。他愛ない会話を、交わしていたのに。
ガラス越しに見た莱は、身動き一つしなかった。ガーゼと包帯に包まれた体は、遠目に見ても痛々しかった。
色々思い出すにつれ、しだいに溢れ出す涙を止める術は無く、ただ頬を伝って枕を濡らす。
…――あたしが泣くのは、狡い。
けれど芽梨ちゃんに言われたことを思い出し、上半身を起こして涙を拭った。
時刻は午前2時。
きっともう、みんなは寝静まっているはず。
それでも一向に眠れないあたしは、静かに部屋を抜け出した。