透明水彩

闇が広がる森の中、敵の気配を窺いながら夜道を進む。
時折聞こえてくるきぬ擦れのような音に、一々ビクリと身体を震わせながら、ケイのあとを懸命に追う。


「……大丈夫かぁ?美凪。」

「…うん。」


あたしの走るペースが遅くなったことに気づいたのか、速度を落とし、あたしに並びながらケイは気遣いの言葉をかけてくれる。

後ろからは理人の視線を感じながらも、あたしは小さく頷いた。

刹那、パシュッ、というような鋭い音がしたと同時に、隣に居たケイが小さく呻く声が聞こえて。


「……っ、やべぇぞ、理人っ!」


そう紡がれるのと、ケイがその場にうずくまったのはほぼ同時だった。


「ケイ…っ!大丈夫?」

「…くそ…っ!俺は大丈夫だ。でもバレちまったぞチクショウ!!
……ここは俺が引き付けておく。だから理人、テメェは美凪を連れて先に行け。」


そんなことを理人に言ったケイの腕から滴る、赤い液体。
真っ暗なはずなのに、それはやけに赤く、あたしの脳裏を掻き乱す。
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