灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~



全てを受け入れる覚悟はできている
のに、今にも消えそうなゆらを
抱きしめることしかできないんだ。



言えずにいた。
ゆらの正体を知っていること。
脆い部分が一気に崩れてしまう
気がして言えなかった。



“アキ”として接していても
“ゆら”には変わりない。
例えクランケであっても、
俺には立派な一人の女だった。





『いやいやいやぁ…!』



突然泣き叫ぶ声に躰が硬直した。
ビリビリに破いたカルテを
投げつけられる。



一番恐れていた結果だった。
だけど、遅かれ早かれいつかは
ゆら自身も気付く日がくるはずで……。



俺の全てを拒絶するゆらに
何ひとつ聞き入れてくれないゆらに
苛立ちを覚える。
伝わらないもどかしさは不安を煽る。



『何処にも行かせない。』



俺の元からは絶対に。



泣いたって、
わめき散らしたって、
その手で刺されても
俺はお前を離さない。










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