ガリ勉くんに愛の手を

今日はあの男が真理亜からお金を受け取る日。

（真理亜さん、来るだろうか？）

僕は待ち合わせ時間前に店の中にいた。

あの時、どうしようもなく、泣き崩れて僕の足にすがっていた真理亜…

そんな彼女を冷たく振り払い、置いてきた罪悪感が今でも僕を苦しめている。

３日前、ここで衝撃の事実を知った。

あの事を思い出すと、未だに身震いが止まらなくなる。

入口の扉が開いた。

あれは間違いなく真理亜だ。

この前と同じ席にポツンと座った。

はっきりとは確認できないが、顔がやつれて体が小さく見えた。

そして、しばらく経ってからあの男が入ってきた。

（僕に力があったら、あんなヤツ殴ぐり飛ばしてやりたい。）

到底かないそうもない相手だ。

小さく震える声で真理亜がポツリポツリ何かを話始めた。

「ごめんなさい…
私の貯金とある分すべて合わせて３００万円しか今日は準備できなかったの。

あとの２００万円はもう少し待ってもらえませんか？」

彼女、こんなに気が弱かっただろうか？

今にも倒れてしまいそうな弱々しい声。

かわいそうに、ずっと悩んでいたんだろう。

「はぁ…？おまえ、なめとんか!!
今日持って来い言うたやろ!」

突然、男が大声を張り上げた。

まぎれもない恐喝だ。

涙を必死でこらえながら許しを乞う真理亜。

「あかん、今持ってこられへんやったら、おやっさんに電話する。」

「それだけはやめて。お願いします。」

今の真理亜の姿…　本当に哀れだ。

（これ以上、見ていられない…）

僕は立ちあがり、ゆっくりと真理亜たちのテーブルの前に近づいて行った。

「おまえ、誰や？！」

「つ、勉君…？」

真理亜の目から我慢していた涙が一気に噴き出した。

「ちょっと、いいですか？」

僕の本心はここから逃げ出したいくらい怖い。

でも、ここで負けたら一生ダメ男のままだ。

覚悟を決めてここへやって来たんだ。

今、決着をつける。

真理亜の為でなく僕自身の為に……