ガリ勉くんに愛の手を
「そ、そんな…まさか、うちの勉が…」

急に母の表情が強ばって受話器を持つ手がブルブルと震えだした。


僕が【たこ萬】に行かなくなってちょうど、1ヶ月が過ぎようとしていた。

大阪へ来た頃は塾が終わると家に直行。

それが当たり前の事だと思っていたのに、今はその生活に何か物足りなさを感じる。


「ただいま。」

いつものようにおばあちゃんが玄関先まで出迎えてくれた。

「つ、勉……」

「どうしたの、おばあちゃん?」

いつもと様子が違う。

「すぐ居間にいらっしゃい。
お父さんたちが待っているから。」

部屋に戻らず、そのまま居間へ…

何故か胸騒ぎがする。

ガチャッ。

中に入ると父と母が神妙な顔で僕を待ち構えていた。

「どうしたの?二人とも。」

「こっちへ来て座りなさい!」

父がいきなり怒鳴り声を上げた。

厳しい表情の父とじっとうつむいたままの母。

重々しい空気がこの部屋一体に漂っている。

僕は言われた通り向えのイスに腰を下した。
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