ガリ勉くんに愛の手を
ポケットにじゃり銭が2枚。

(200円…か。)

飛び出したものの、財布も何も持って来なかった。

これじゃ電車にも乗れない。

(あ~これからどうしよう……)


ブラブラと行き先も決めず、ただ前を向いて歩いていた。

腕時計を見ると、もう11時すぎ。

ただただ足の向くままに歩いていると、いつしか[ミナミ]にたどりついていた。

商店街の中はまだ明るく、若者でにぎわっている。

(不思議だな…)

1年前はこんな場所一人では到底、歩けなかった。

電車の中や道行く人さえも怖くて避けていたのに……

僕自身、父と同じ考えを持っていたに違いない。

見た目で人を判断し、自分たちがいかにも上流階級の人間だと思い込んでいた。

(なんだ、僕もただのちっぽけな人間じゃないか。)

どんなに偉い人でも原始時代に戻れば何の位もない、ただの人間なんだ。

父たちは気付いていないだろうが、僕はここへ来て大きく変わった。

知らない事が多すぎてあのまま大人になっていたら、僕も父みたいな上辺だけの人間になっていたに違いない。

そんな僕を変えてくれたのはここ。

[ミナミ]

僕は今の自分が好きだ。

そして、[ミナミ]が大好きだ。
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