ガリ勉くんに愛の手を
「佐奈。」

「何?」

「お前、無理してへんか?」

佐奈は一瞬、声を詰まらせた。

「何が?うちいつもと一緒やで。」

「俺な。お前が東京行くって決めた時、言おうかどうしようか迷ったけど…

お前は健二といてる時、いつも無理してた。」

(おっちゃん…)

「健二に合わせようと、いつも背伸びしてたやろ?
だから、自分らしくやっていけるんかずっと心配やってん。」

(うちが、無理してる?)

「ここで働いてる時の佐奈はホンマの佐奈やった。
自分らしくいつも元気で。

今も自分らしく生きてるか?
しんどないか?」

「おっちゃん…
もう、健二帰ってくるからまた電話するわ。」

「そうか、何かあったらいつでも電話せえよ。」

「うん。おっちゃんも元気でな。」

ガチャッ

佐奈の目には大粒の涙があふれ出し、心が張り裂けそうに苦しかった。

(おっちゃん、うち無理しっぱなしや…)

それでもおじさんに心配をかけまいと最後までがんばって見せた。

(佐奈。
お前、ホンマに幸せなんか?)

おじさんは切れた電話の受話器を見つめながら、そうつぶやいた。


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