ガリ勉くんに愛の手を
先にエレベーターに乗り込んだトレーナーのイッコー。

僕は反対側に立ち、イッコーに背を向けた。

ガチャンッ

扉が閉まる。

シ―――――ン 

別になんら変りのない普通のエレベーター。

しかし、静まり返ったその空間は二人きりの密室でもある。

何かがおかしい。

(何だろう?この威圧感は…)

ドッキン、ドッキン…

背中から忍びよる不気味な影…

フゥ――――ッ

「うゎっわっわっわ…」

耳にかかる息。

イッコーが僕の耳に息を吹きかけてきた。

僕は慌てて後ろを振り向いた。

「な、何をするんですか?!」

「いやん、そんなに怒らないで。ウフッ」

(そ、その話し方?)

初めて発した声。

たちまち体中の毛が逆立ってしまった。

見た目とはかけ離れた話し方。

(ま、まさか、この人は…)

僕の中で嫌な予感が走った。

(大丈夫、もう少し。
エレベーターが着くまでの辛抱だ。
じっとしていればすぐに扉が開く…)

僕は目を閉じて自分にそう言い聞かせていた。

(早く、早く着いてくれ。
何階だ、何階まで行くんだ。)

どこまで行くのかいくら待ってもなかなかドアが開かない。

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