ガリ勉くんに愛の手を
「いいのよ、別に気を使わなくても。
私をどこで見かけたの?」

「は、はい。
ちょっと言いにくいんですが…
[ミナミ]にあるオカマバーの前で…」

イッコーのギョロリとした目が僕を睨んだ。

「す、すみません。
僕の勘違いだったようで…」

「会ったのね。あの子と!」

(あの子?)

「イッコーさんじゃないんですか?」

「違うわ。私はずっと東京にいるから。
あなたが会ったのは私の双子の妹よ。」

(双子の妹?
…普通、弟って言わないかな?)

「弟って言うな!!」

(何も言ってないのに…)

やはり心が読めるようだ。

(無心、無心…)

「私たち姉妹は昔から顔も性格も同じでね。
18歳の時、同じ男を好きになってそれからケンカ別れしたのよ。
それっきり会ってないの。」

(なんか、かわいそう。)

オカマの人間関係も複雑なんだと初めて知った。

「妹は三光(サンコウ)って言うの。
それじゃオカマバーでがんばっているのね。」

イッコーの目がうっすら涙ぐんでいるように見えた。

(やっぱり姉妹?(兄弟)なんだ。)

ケンカ別れをしてもずっと気にかけていたんだろう。

なんだか心がジーンときた。

「それはそうと、勉ちゃん今度のオーディション受けるんだって?」

人がせっかく感動している時にこんなあっさり切り返すとは…

「は、はい。
全然自信はないんですけど…」

「大丈夫よ。
あなたには私がついているから。
絶対ケンジには負けられないわ。」

(ケンジ?)

その目にはどこか怒りのようなものが映っていた。

「がんばりましょうね!」

「は、はい。」

僕は性別不明なこの人の事を人間的に好きになれそうな気がした。

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