ガリ勉くんに愛の手を
こんな事はお互いが愛し合ってこそ初めて営むものじゃないのか?

「芸能界に入るためには色んな経験を積まなきゃいけないのよ。」

(そ、そんな…)

僕はまだ高校生だ。

こんな好きでもない人と抱き合うなんていやだ。

僕が望むのはただ一人。

(佐奈さん。)

ちあきは僕の抵抗を振り払い、ズボンの中に手を入れてきた。

「や、やめて~!」


――――――――

人がまばらな電車の中で窓から映る東京の夜景を眺めているあゆ美。

「勉君…」

ちあきに言われるまま僕を残してきたが、本当は心配で仕方がなかった。

(私の判断は間違ってないよね。
ちあきに預ければ絶対優勝できるはずよね?)

そう自分に言い聞かす事でこの不安から逃れられると思った。

宿舎のある駅に到着し、あゆ美は改札を出てトボトボと歩いていた。

(やっぱり、ダメ!)

急に何かを思いついたあゆ美はカバンの中から携帯電話を取り出し、慌てて電話をかけた。

♪プルルルル… プルルルル…♪

「はい、イッコーです。」

「あ、イッコーさん、あゆ美です。」

「あらん、こんな時間にどうしたの?」

「すみません、遅くに。
実は聞きたい事があって。」


「聞きたい事?なあに?」

少し間をおいてあゆ美が言葉を切り出した。

「ちあきの事なんですけど…」

ちあきの名前を聞いた途端、イッコーが貝のように口を閉ざした。

「お願いします!教えてください。
勉君が……」

あゆ美はイッコーに何を聞きだそうとしていたのか?

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