ガリ勉くんに愛の手を
知らなかった。

まさか健二がこのオーディションに出場するなんて…

頭が混乱して動揺を隠せない。

(そうだ、健二さんとは一度店であってるし、顔を見られたらマズイ。)

僕は足元に置いてあったカバンの中を探りながら必死で顔を隠そうとした。

「あれ?君も出場者?」

不審な行動がかえって目立ったようだ。

健二が僕に気づき、声をかけてきた。

変に避けるとかえって怪しまれてしまう。

(どうしよう。とりあえず返事をしなければ…)

「は、はい。僕もオーディションに出場します。」

健二は中央に設置されたソファーに座りながらじっとこっちを見ている。

(こんなヤツ出場者の中にいてたか?)

健二はちあきから今日の出場者について事前に情報を聞き出していた。

その中には僕のリストはまだ入っていなかったようだ。

「君、タレント?」

動揺する僕に対し、必要以上に質問を投げかけてくる。

「ぼ、僕は…」

予期せぬ質問にどう答えるか必死で考えた。

「一般市民です。」

「一般市民?!
プッ、ハッハッハッ…君面白いな。お笑志望か?」

同じタレント仲間の相川ショウも横で笑っている。

「素人って事だよね?」

「そ、そうです。」

(なんか変やな?)

健二は僕を疑っているのか、急に立ち上がりこっちへ近づいてくる。

(来るな、来るな!)
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