ガリ勉くんに愛の手を
ふと、鏡の前に冊子のようなものが置いてあるのに気づいた。

(なんだろう?)

手に取って表紙をめくってみる。

~CM恋人たちのXmas~
【君に伝えたい…】

1ページ目にそう書いてあった。

(これは、今度撮影するCMのストーリー?)

僕は誰が置いていったかも知らず、興味本位で中を覗いてみた。

・・・・・・・
・・・・・・・
「…愛してる。」

主人公が最後に彼女を抱きしめながら伝えた言葉。

胸がキュンっと締め付けられる思いだ。

(僕もいつか…)

一人想いにふけっていると、外がやけに騒がしくなってきた。

多分、関係者が準備を始めているのだろう。

さっきまであんなに平常心を保っていたのに周りの空気に惑わされ、胸が少しずつ高ぶってきた。

それから数分後、部屋の前で誰かが立ち話をしているのが聞えてきた。

そして部屋のドアが開き、二人の男性が入ってきた。

僕はどうしていいのか分からず、とっさに前に置いてあった雑誌を読むフリをして顔を隠した。

「ここが控え室?なんか狭いな。」

一人がそう言った。

「まぁ仕方ないよ、仕事じゃないんだし。
でも、健二、今日は僕もマジで狙っているからね。」

「ショウ、それはこっちのセルフや。
このCMだけは俺がとる。」

聞きなれた大阪弁、聞き覚えのある渋い声、そして…

その名前…[健二]

僕は思わず彼の顔を見てしまった。

(あ…!)

胸が詰まって声が出ない。

こんな所で再会するなんて神様のいたずらか?!
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