ガリ勉くんに愛の手を
無数の照明が僕に集まっている。

その光を浴びたせいで目の前が一瞬真っ白になった。

しばらくすると、目が慣れきたのか大勢の観客たちが僕の方を見ているのがはっきりとわかった。

観客の頭がポコポコと浮き沈みしている様子がどこかおかしい。

不思議だ。

さっきまでの息苦しさがウソのように消えている。

これもイッコーのアドバイスのおかげかな?

会場にいるすべての人が今、僕に注目している。

どたん場になってもまだ頭には何も浮かんでいなかった。

舞台中央でじっと黙ったままの僕を司会者が促すように小さく合図を送っているのが見えた。

「…大泉さん、大泉さん?」

(ハッ!)

「は、はい。」

「大泉さん、大丈夫ですか?あなたがラストです。
よろしくお願いしますよ。」

そう小声で話すと舞台の脇へと下がって行った。

それでも僕の口からはなかなか言葉が出てこない。

後ろで見ていた健二が苛立ちを隠せない様子だ。

(何してんねん。
さっさとしゃべって終わらせろ!)

健二の声が空耳のように僕まで届いた。

「ぼ、ぼくは……」

やっと出た言葉も声が小さすぎて審査員に届かない。

その時、ちあきが、

「大泉さん、あなたにも好きな人がいるでしょ?
その人を想う気持ちを素直に言えばいいだけ。」

(気持を素直に?)

ちあきの一言で、今まで頭の中に張り巡らされていた緊張の糸がプツリと切れたようだ。

僕はもう一度だけ大きく深呼吸した。

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