ガリ勉くんに愛の手を
(佐奈さん、僕は今新しい夢に向かってがんばっています。

だからもう少しだけ待っていてください。
それをやり遂げたら必ず佐奈さんに会いに行きます。)

こんなにも互いに想いを寄せながら今はまだそれを確かめ合う事ができない。

その気持ちを胸に秘めたまま僕と佐奈は言葉を交わす事もなく電話を切った。


翌日、目が覚めた瞬間から僕を取り巻く環境は180度変わっていた。

朝からテレビのワイドショーや週刊誌に「謎の美青年現る!」、「CMの主役は幻のイケメン!」などと言う大げさな見出しですべて飾られていた。

もう一つ大きく変わった事は、あゆ美は引き続き僕のマネージャーをする事になっているが、もう一人スケジュール管理をするベテランのマネージャーがつく事になった。

そしてスタイリストのイッコーは今回契約を除外されてしまった。

朝一番その事を聞いてイッコーに電話をかけた。

「イッコーさん、本当に残念です。」

「仕方ないわよ。
私よりもっとすごいスタイリストがついてくれるから安心だわ。」

そう言ってはいたものの、イッコ―の声はどこか寂しげだった。

「イッコーさん、僕にとってあなたは信頼できるトレーナーであり、最高のスタイリストです。
僕はあなたと出会えて本当に幸せでした。」

その言葉を聞いてイッコーは我慢していた気持ちを抑えきれなくなった。

「勉ちゃーん、私だってあなたと別れたくなんてないのよ!
ずっと、ずっとあなたのそばにいたいのよん。」

(ずっと?)

「そう、ずーっと…ムフッ」

この意味深な発言に背中がゾクゾクしてきた。

「イッコーさん、ありがとうございました。お元気で。」

ガチャッ

すばやく電話を切った。

あの色気がなければいい人なのに…

(コン、コン)

部屋のドアを開けると、あゆ美と新しいマネージャーが立っていた。

「勉君、そろそろ出発するわよ。」

「はい。」

ホテルから出ると、さらに信じられない光景が僕を待ち構えていた。
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