ガリ勉くんに愛の手を
僕を待っていたのは車だけではなく、何百人と言う女性の群れだった。

「キャーッ!イケメン君こっち向いて~」

「大泉君、サインちょうだい!」

「つとむ!愛してる~」

(な、なんだ、これは…?)

いや、僕が[大苅勉]ではなく[大泉勉]に完全になってしまったようだ。

あのオーディションがどれだけすごいものなのかを改めて思い知らされた。

ガードマンたちに道を確保してもらいながら急いで車へ乗り込む。

車が出発してからも後ろから走って追いかけてくるのが見えた。

(あっ!危ない、大丈夫かな?)

中にはつまずいて転んでいる子もいる。

芸能界なんて無縁だった僕が初めて体験した出来事ばかりだ。

これからずっとこんな生活が続くのかな…

僕は自分の選んだ道が正しかったのか、だんだん不安な気持ちになってきた。

それとは逆にCMの恋人役や撮影の日程も決まって、どんどん話が進んでいた。

― 1週間後

僕たちはいよいよ撮影の為、大阪に向かう事になった。

東京を発つ前にあゆ美から一つ気がかりな事を聞いた。

それはあのオーディション以来健二が姿を消したと言う事…

決まっていた仕事も全部キャンセルしたらしい。

健二が相当ショックを受けているのはわかっていたがまさかいなくなるなんて誰も思わなかった。

一体どこへ行ってしまったんだろう…?

そしてこの事が後で思いもよらぬ大事件をひき起こすきっかけになるとは今は誰も気づく者はいなかった。
< 347 / 401 >

この作品をシェア

pagetop