ガリ勉くんに愛の手を
現場に戻ってきたちあきを心配そうに見つめる山崎。

「ちあきさん、健二にあんなきつい事言っていいの?」

「…山ちゃんはどう思う?あれでOK出せる?」

そう言われて言い返せない山崎もやはり納得していなかったようだ。

僕がいる場所からではそんなやりとりが行われているとは気付くはずもない。

てっきり撮影は無事に終了したものだと思っていた。

どっちにしろ、今の僕にはどうでも良かったし。

(あー、顔がまだ熱いや。)

まるで試合に敗れたボクサーが倒れて天を仰いでいるように目を閉じていたら……

(ん?)

空から冷たいしずくが顔に落ちてきた。

(雨?)

顔が熱いせいか、そのしずくは一瞬で溶けてしまった。

(雪だ!あぁ、気持ちいい。)

その雪はほてった顔をほどよく冷やしてくれる、とても心地良いものだった。

このまま心の傷まで癒してくれたらいいのに。

僕は手のひらを空に向けて落ちてくる雪を受け止めようとした。

もちろん、手に雪がたまる事はないが…

こうやって何も考えずにボーっとしていたら、いつしか僕の顔にも柔らかい笑みが浮かんでいた。


その様子を遠くから見ている人がいる。

「山ちゃん、何してるの?」

撮影が始まってもいないのになぜか山崎はカメラを覗きこんでいる。

「あそこ。」

(え?)

ちあきはそのカメラの先を目で追ってみた。

(あれは……勉君?)

「惜しいよなぁ~アイツ。」

そう言われてちあきもまた遠くからこっちをじっと見ていた。

雪とたわむれる姿はどう映っているのか?

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